突然のアクセス集中でサイトが落ちてしまった——そんな経験をした企業は少なくありません。サーバーダウンは売上の損失だけでなく、ユーザー離れや復旧コストの増加といった大きなダメージにつながります。なぜアクセス集中が起きるのか、どんな影響を与えるのか、そしてどのように備えるべきかを、本記事で詳しく紹介します。
アクセス集中とは、Webサイトに対して、通常のアクセス量を大幅に超えるリクエストが短時間に殺到する現象を指します。これによりサーバーの処理能力が限界に達し、Webサイトの応答が著しく遅くなったり、最悪の場合はサーバーがダウンしてしまったりする状態に陥ります。
例えば、人気商品の発売開始時刻にユーザーが一斉にサイトを訪れる、テレビ番組で紹介された直後に視聴者が検索してアクセスするなど、特定のタイミングで発生することが多いです。この状態になると、サイトには「503 Service Temporarily Unavailable」といったエラーメッセージが表示され、ユーザーはページを閲覧できなくなります。これは、いわばお店のレジにキャパシティを超えるお客様が一度に押し寄せ、対応しきれずに営業がストップしてしまうようなものです。
事前にアクセスが増えることが予測できるケースです。例えば、ECサイトにおける大規模なセールや限定商品の発売日、テレビCMの放映時間、Webメディアへの掲載タイミングなどがこれに該当します。特に、キャンペーンの開始時刻や商品の発売時刻が明確に決まっている場合、その瞬間に多くのユーザーが一斉にサイトへアクセスするため、サーバーに極めて大きな負荷がかかります。
これらのアクセス集中は、日時がある程度特定できるため、計画的な対策を立てやすいという特徴があります。しかし、その分、アクセスのピーク値は非常に高くなる傾向があり、事前の備えが不十分だと簡単にサーバーダウンを引き起こしてしまいます。
運営側の意図とは関係なく、突発的にアクセスが急増するケースです。これは主に、影響力のあるインフルエンサーがSNSで商品やサービスを紹介したり、一般ユーザーの投稿がきっかけで「バズ」と呼ばれる爆発的な情報拡散が起きたりすることで発生します。いつ、どのくらいの規模でアクセスが増加するのかを予測することは極めて困難です。
数分から数時間の間に、通常の何十倍、何百倍ものトラフィックが発生することもあり、常時このような事態に備えたサーバー環境を維持するのはコスト面で現実的ではありません。そのため、柔軟かつ迅速に対応できる仕組みの構築が重要となります。
Webサイトやサービスを意図的に停止させることを目的とした、悪意のある第三者によるサイバー攻撃もアクセス集中の原因となります。その代表的な手法が「DDoS(ディードス)攻撃」です。これは、複数のコンピューターから標的のサーバーに対して一斉に大量の処理要求を送りつけ、サーバーのCPUやメモリなどのリソースを使い果たさせて機能を停止させる攻撃です。
これらの攻撃は、一見すると通常のアクセスと見分けがつきにくい巧妙なものも多く、企業の信頼性を損なうことを目的として行われます。自社のサービスを守るためには、このような不正なアクセスを検知し、遮断するための専門的なセキュリティ対策が不可欠です。
外部からのアクセス増だけでなく、サイト運営の内部に起因する問題でアクセス集中と同じような状況に陥ることもあります。例えば、サーバーを構成しているハードウェア(CPU、メモリ、ハードディスクなど)が経年劣化や物理的なダメージで故障し、本来の処理能力を発揮できなくなるケースです。この状態では、通常時と変わらないアクセス数であってもサーバーが処理しきれず、ダウンしてしまうことがあります。
また、システムのアップデートや設定変更時の人為的なミスによって、プログラムが正常に動作せず、サーバーに過剰な負荷をかけてしまうこともあります。これらは見落とされがちな原因ですが、サーバーダウンの要因として決して少なくありません。
アクセス集中への対策は多岐にわたりますが、目的別に大きく「サーバー本体の強化」「アクセスの流れの最適化」「アクセスそのものの制御」「運用と準備」の4つに分類できます。ここでは具体的な10の対策を解説します。
まず基本となるのが、アクセスを受け止めるサーバー自体の処理能力を高めるアプローチです。
スケールアップとは、現在利用しているサーバーのCPUやメモリ、ディスクといった部品をより高性能なものに交換し、サーバー1台あたりの処理能力を向上させる方法です。例えるなら、PCの性能を上げるために部品をアップグレードするのと同じ考え方です。構成を変えずに純粋なパワーアップが図れるため管理がしやすいというメリットがありますが、性能の向上には物理的な限界があり、また高性能なサーバーほどコストは高額になります。恒常的にアクセスが多いサイトの地力アップに向いています。
スケールアウトは、サーバーの台数そのものを増やし、複数のサーバーで処理を分担させる方法です。1台のサーバーに負荷が集中するのを防ぎ、システム全体でより多くのアクセスを処理できるようにします。1台あたりのサーバーは比較的低スペックなものでも構成でき、アクセス数の増減に応じて柔軟に台数を調整しやすいのがメリットです。ただし、後述するロードバランサーというアクセスを振り分ける仕組みが別途必要になり、システム構成はスケールアップに比べて複雑になります。
サーバーに到達するアクセスの流れを整理し、効率化することで負荷を軽減するアプローチです。
ロードバランサーは、外部からのアクセスを複数のサーバーに均等に振り分けるための「交通整理役」となる装置や仕組みです。スケールアウトでサーバーを複数台構成にした場合に必須となり、1台のサーバーに負荷が偏ることを防ぎます。
また、一部のサーバーが故障した際には、それを自動で検知して正常なサーバーにのみアクセスを流すことで、サービス全体の停止を防ぐ役割も果たします。これにより、サイトの安定性と可用性を大きく向上させることができます。
CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)は、画像や動画、CSSファイルといった容量の大きい静的コンテンツのコピーを、世界中に分散配置されたキャッシュサーバーに保存しておく仕組みです。ユーザーがサイトにアクセスすると、最も近いキャッシュサーバーからコンテンツが配信されるため、表示速度が向上します。
本体のサーバー(オリジンサーバー)は動的な処理に集中できるため、サーバー負荷が大幅に軽減されます。ユーザー体験の向上とサーバー負荷軽減を同時に実現できる、非常に効果的な対策です。
オートスケールは、主にクラウド環境で利用できる機能で、サイトへのアクセス負荷を監視し、サーバーの台数を自動的に増減させる仕組みです。アクセスが急増した際には、自動でサーバーを増やして(スケールアウト)処理能力を高め、アクセスが落ち着けば自動でサーバーを減らして(スケールイン)コストを最適化します。SNSでの拡散など、予測困難な突発的アクセスに非常に有効な対策であり、機会損失を防ぎつつ、無駄なコストを抑えることが可能です。
サーバーが処理しきれないほどのアクセスが来た場合に、サーバーに到達するリクエスト自体をコントロールするアプローチです。
仮想待合室は、サイトへの同時アクセス数が設定した上限を超えた場合に、後から来たユーザーを一時的な待機ページへ誘導し、順番にサイト内へ案内する仕組みです。人気コンサートのチケット販売などで見られるオンライン上の行列システムと考えると分かりやすいでしょう。サーバーが処理できる範囲にアクセス数を制御することで、サーバーダウンを回避します。ユーザーに対して待ち時間や自分の順番を可視化することで、何も表示されずに離脱してしまうのを防ぐ効果もあります。
サイバー攻撃が原因のアクセス集中に対しては、専門的なセキュリティ対策が不可欠です。WAF(Webアプリケーションファイアウォール)は、アプリケーションの脆弱性を狙った攻撃的な通信を検知・遮断します。また、DDoS対策サービスは、大量のアクセスを送りつけてサーバーを麻痺させるDDoS攻撃を専門に防御します。不正なアクセスをサーバーに到達する前にブロックし、サービスを保護します。
最新の技術だけでなく、日々の運用や事前の準備によってリスクを軽減するアプローチです。
負荷テストとは、実際にサーバーへ疑似的なアクセスを大量に送り、現在のシステムがどの程度のアクセスに耐えられるのか、限界性能を測定するテストのことです。これを行うことで、システムのどこに弱点(ボトルネック)があるのかを事前に特定できます。この結果に基づいて、スケールアップやCDNの導入といった具体的な強化策を計画できるため、勘に頼らない効果的な対策が可能になります。重要なキャンペーンの前には必ず実施しておきたい準備の一つです。
技術的な対策と並行して、マーケティングや販売方法の工夫でアクセスを時間的に分散させることも有効です。例えば、セール期間を1日だけでなく数日間に延長する、新商品の販売を時間帯や商品カテゴリで分ける、販売方法を先着順ではなく抽選方式に切り替える、といった方法が考えられます。これにより、特定の瞬間へのアクセス集中を緩和し、サーバーへの負荷を軽減できます。ユーザーにとっても、焦らずに買い物ができるというメリットがあります。
サーバーのCPU使用率やメモリ使用量、ネットワークの通信量などを24時間365日体制で監視するシステムを導入することも重要です。これにより、アクセスが急増し始めた予兆や、ハードウェアの不調といった異常を早期に検知できます。問題が深刻化してサーバーが完全にダウンしてしまう前に、アラート通知を受けて迅速に対応を開始できるため、被害を最小限に抑えることが可能です。安定したサイト運営のためには不可欠な仕組みと言えるでしょう。
これまで解説した10の対策は、闇雲に導入すれば良いというものではありません。自社のWebサイトの特性やアクセス集中のパターンに合わせて、最適な対策を組み合わせることが重要です。ここでは代表的な3つのケース別に、おすすめの対策プランを紹介します。
事前にアクセスが集中する日時が分かっているこのケースでは、計画的な準備が可能です。まず、過去のデータや告知規模からセール時の最大アクセス数を予測し、それに耐えうるサーバーリソースを期間限定で確保します(スケールアップまたはスケールアウト)。そして、商品画像などの表示を高速化し、サーバー負荷を軽減するためにCDNを導入することは必須と言えるでしょう。
さらに、万が一予測を超えるアクセスが来た場合に備え、仮想待合室を導入しておくのが賢明です。これにより、サーバーダウンという最悪の事態を防ぎ、ユーザーに公平感を与えながら販売を継続できます。キャンペーン開始前には必ず負荷テストを実施し、準備した環境で本当にアクセスを処理できるかを確認しておくことが、セール成功の鍵を握ります。
いつ、どの記事がSNSで拡散されるか予測が難しいメディアサイトなどでは、突発的なアクセス急増にいかに柔軟に対応できるかが重要です。このケースで最も効果的な対策は、クラウドのオートスケール機能の活用です。アクセスが急増した時だけ自動的にサーバー台数を増やし、アクセスが落ち着けば元に戻してくれるため、機会損失を防ぎながらコストを最適化できます。
併せてCDNを導入し、記事内の画像などをキャッシュサーバーから配信することで、本体サーバーの負荷を常に低く保っておくことも非常に有効です。これにより、バズが発生した際のサーバーの応答性能を高く維持できます。また、24時間体制の監視ツールを導入しておけば、アクセスの急増を即座に検知し、万が一オートスケールがうまく機能しないなどのトラブルにも迅速に対応できます。
サービスの成長に伴い、日常的なアクセス数が右肩上がりに増加している場合は、長期的な視点でのインフラ設計が求められます。目先のアクセス増強だけでなく、今後のさらなる成長を見据えた拡張性(スケーラビリティ)の確保が重要です。
このケースでは、まずロードバランサーを導入し、複数のサーバーで負荷を分散させる構成(スケールアウト)を基本とします。これにより、将来アクセスが増加した際にも、サーバーを1台ずつ追加していくだけで柔軟に対応できます。Webサーバーとデータベースサーバーを分離するなど、サーバーの役割分担を明確にすることも、システムの安定性と拡張性を高める上で有効です。定期的に負荷テストを実施してシステムの現状の限界を把握し、計画的にサーバー増強を進めていくことが安定したサービス提供に繋がります。
本記事では、アクセス集中が起こる原因から、サーバーダウンがもたらす深刻な影響、そして目的や状況に応じた具体的な対策方法までを網羅的に解説しました。サーバーの性能を高めるスケールアップから、負荷を分散するCDNやロードバランサー、アクセスを制御する仮想待合室まで、その対策は多岐にわたります。
重要なのは、アクセス集中を単なる「避けるべきリスク」としてだけでなく、「大きなビジネスチャンス」に変えられると認識することです。サーバーダウンが起きてからでは、売上の損失だけでなく、顧客の信頼を回復するために多大な時間と労力がかかります。
自社の状況に合ったものを選び、事前に対策を講じることで、大量のアクセスを安定して受け止め、売上やファンの獲得に繋げることが可能になります。まずは自社サイトがどの程度のアクセスに耐えられるのかを把握し、来るべきチャンスを逃さないための準備を始めることを強くお勧めします。
負荷テストサービス会社は数多くありますが、それぞれ得意とする領域は違います。
原因特定力が高くスピーディに解決できる会社もあれば、アフターサポートが手厚い大手ソフトウェアテスト会社、インフラレベルの大規模テスト実績が豊富な会社など、強みも様々。
ここでは代表的な3つのニーズに分けて、おすすめの会社を紹介しています。
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